ペンギン新聞 第1回 

運命のチラシ

南極行きは、子供の頃からの夢でした。家の近くの上野動物園で一番のお気に入りは、ペンギンでした。その頃南極に行くというのは今の宇宙旅行に近い位の夢で、南極探検隊だけが行ける遠い遠いところでした。観光旅行が可能になった今でも、南極行きは百万円近い費用のかかる非現実的な場所であることに変わりありませんでした。

話は新宿駅南口で手渡された一枚のチラシから始まります。HISが駅前で配っていたチラシのセットのなかに大きく南極14日間478000円〜という黄色いペラのチラシを見てしまったのです。その日からもうこれは行くしかない、このチャンスをのがすと当分南極なんかに行けるチャンスはないと、殆どその場で行くことを決めていました。そのチラシには人の心を見透かしたように、なぜこんなに安いかという理由が書きそえてありました。そこにはある旅行社がチャーターした船が11月になってキャンセルになり、それをHISがまるごと買い取ったのでこの価格が実現したと書かれていました。実はこれには、裏があったのですが、、。今回このツアーに参加した人達に後で聞いてみたところ、殆どの人はこの価格につられたようでした。僕はといえば、その日のうちに資料の請求のFAXを出し、3、4日考えたもののやはりこれは行くしかないという結論に簡単に達し、一応社会人なので仕事のスケジュール調節を強引にして参加の申し込みをしてしまいました。説明会なるものも何回か催されたのですが、結局一度も聞きに行きませんでした。

予想外の事が起きるのが旅の醍醐味というものですが、場所が場所だけに準備は整えておかなければと、特にウェアの準備は入念に行いました。一番迷ったのが靴です。と言うのは、船から上陸する時にソディアック(ゴムボートのようなもの)で着岸するのですが、桟橋などあるわけが無いので海の中を少し歩かなければならないのです。ただ水深がどの程度なのかわからないので、これが悩みの種でした。結局僕はひょんな事から消防士が使う腿の上まである銀色のど派手な長靴(ゴーストバスターズみたいなやつ)を手に入れました。これは消防庁のマーク入りの逸品で、今回のツアークルーの間でも大評判でした。次は防寒対策ですが、これは南極といっても夏なので日本のスキー場程度の寒さと聞いていたので、少し長めの上質のダウンジャケットを用意しました。ただこれも悩みの種となったのが、上陸時に海が荒れるとかなり波をかぶるので防水性も求められるという点でした。普通ダウンを着るくらい寒ければ雨にはならずに雪になるので、ダウンジャケットには強い防水性は無いのです。かといって防水性の強いイクスペディションコートという上着はダウンほどは暖かくないので、防寒をとるか防水をとるかで迷いました。結局僕は、波を被るのは一時だけど寒さはずうっと続くということで防寒に重点を置きました。ただ暖かくて雨になった時のことも考慮にいれて、ダウンの上からでも着られる大きなビニールのレインコートも用意しました。更に準備は続くのですが、この続きは次回のペンギン新聞でお伝えします。


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